デパ地下などの食品売り場の魅力を考える時に、
忘れることができないのが試食販売の存在。
食べ物や飲み物を買わずに試食や試飲ができるということは、
客にとっては食品売り場めぐりの楽しみの一つである。
しかし、一方で客は、
試食〈試飲〉をすると買わなければならなくなる
ことが生じやすいということをよく知っているので、
警戒してなかなか近づいてこない。
試食販売がむずかしいのは、そこが、
店員と客との熾烈な駆け引きの現場
になっているからだ。

これは、六尺(約1.8メートル)の台の上に商品を並べただけの
「店員空間が狭い接触型店」の構造をした
「手羽のから揚げ」を売る店である。
この店の達人販売員のアクションを見てみよう。
この達人は、客が一人もついていない時は、
静かに商品を並べ替えたり包装材を整理したりという作業をしている。

客が立ち止まると、説明開始。
ただし、直接目の前の客に話しかけるのではなく、
切れ目なく、説明と呼び込みを続け、
客が近づいてきたら、すかさず、
客の顔を見ないで試食品を手渡す
ことがポイント。

客は試食したい気持ちはあっても、
試食したらイヤでも買わなければならなくなる
ことを恐れて躊躇しているので、
試食しても気にいらなければ買わなくてもいいということを、
ことばではなくアクションで伝えることが大切だからだ。
そうこうしているうちに客から注文が入ったら対応する。

一度試食した客に別の試食品を手渡す時には、
きちんと客の顔を見て、にっこり笑いかけてかまわない。
一度試食をして立ち去らなかった客は
すでに警戒心を解いているので、
店員とのコミュニケーションを受け入れやすくなっているからだ。

試食販売のポイントは、
「売る」ことではなく、「食べさせる」こと。
従って、試食販売のコツは、
ムリに客とコミュニケーションをとろうとしないこと。
客が軽い気持ちで試食できるように、
できるだけ客に負担をかけないことが大切。

熱心さのあまり、客に強引に近づくと嫌われる。

だからといって、身体を動かさないで、
ことばだけで勧めても何も伝わらない。

試食をしている客の姿は、たとえ買ってくれなくても
次の客を引き付けるための大きな力(サクラパワー)になる。
試食をする客が絶えない状態を保てば保つほど、
売り上げも上がる。