通行量の多い道に簡易な店を出して、
ごく短期間だけ販売する催事販売がある。
売られている商品は、多くの場合、
正規のルートを通らないもので、破格値で安売りされる。
このような店には非日常性があり、客を強く引き付ける魅力がある。
ここでは、かつて新宿駅構内で実際に行われていた、
極めて変わった販売方法を紹介する。
*
この店は、「2枚4000円の婦人もののマフラー」を
なんと、「4枚1000円」で販売していた。
しかし、いくら安いと言っても、メーカーも品質もはっきりしない
このような商品が果たして売れていくものなのか?
*
店の構造はイラストのような「販売員空間が狭い接触型デザインの店」である。
販売員は、呼び込み係、精算包装係、商品補充係の3人。
さて、このような催事でもっともむずかしいのは客を集めることである。
いくら通行量の多いところに商品を並べても、
なかなかたくさんの客が来るというものではない。
そこで、必要になるのが呼び込みである。
ここでは若い男性が呼び込み係を専任している。

一見、ごく普通の呼び込みのように見えるが、
実はその声量が半端ではない。
駅構内に響き渡り、遠くの人も思わず振り向くほどの大音量。
しかもマイクなどは使わない肉声である。

しゃべる内容は極めて単純である。
いつでも「ただ今から」安売りが始まる。

この店の特徴は、販売員が誰も接客アプローチをしないことである。
呼び込み係はひたすら呼び込むだけ。
補充係はひたすら補充するだけ。
精算・包装係りはひたすら精算・包装するだけ。
だから、客は危険を感じることなく、自由に商品空間に
近づき、商品を検討することができる。

このような店では、何人かの客が興味を引かれて店に近づいて行くと、
その客がサクラの役割を果たし、次々と新しい客を引き付けていく。
ある程度、人だかりができると、あとは切れ目なく
新しい客がやって来るようになる。

売れている、売れていないに関係なく、
「ありがとうございましたー」を連呼する。

別に客は押し合ったりしていないが、
「押さないでくださーい」を連呼する。

「四枚1000円」を連呼する。

この店の魅力は、なんと言っても、呼び込み係である。
このような売り場で、人が叫ぶのをやめて
録音テープを流すと、その魅力は半減するだろう。
この店を見ると、客にとってもっとも興味があるものは、
商品ではなく、販売員のアクションだということがよくわかる。
この店は
